──結局、その後も学校に到着するまで言い合いは続いていた。
少しでも申し訳なさを感じていた自分が馬鹿みたいに、罵詈雑言の嵐。
教室にたどり着くまでに、かなりの体力を使ってしまった。
「あ〜・・・、疲れた・・・」
自分の席に着くなり、荷物を置いて机に伏した。
廊下の方には、一緒に言い合いをしていた二海が友人とあいさつを交わしているのが見える。
「茉弘、おはよう。ふふっ、朝イチなのにもう疲れたの?昨日ちゃんと眠れなかった?」
私が気の抜けたような声を出した時、前の席から由紀の声が聞こえてくる。
多分、私が登校してきたのに気付いて近くまで来てくれたんだろう。
「いや、ちゃんと寝た〜。・・・・・・ここまで来るのに疲れちゃっただけ」
机に顎をのせるような体勢になりながら、前の席を借りて座る由紀のことを見つめる。
「・・・へぇ、何かあったの?」
少し間を空けてからの由紀の反応。
やっぱり、昨日あたりからおかしい気がするんだよな・・・由紀。
「なにか、じゃないよぉ〜・・・。電車の中であのクソ男と一緒になってさぁ〜・・・」
由紀の反応が気になりつつも、私は電車内のことを話した。
電車に乗った瞬間にアイツに会ってしまったこと。
会って早々に罵詈雑言の嵐だったこと。
結局学校までの道のりを一緒になってしまったこと。
それを聞いた由紀は、一瞬だけキュッと口を結んで手を握りしめた。
「・・・な・・・そ・・・ま・・・?」
うつむきながらボソッと紡がれた由紀の言葉は私の耳には届かなかった。
「ん?なに?ごめん、聞こえなくて・・・」
「!・・・えっと・・・電車の時間ずらしてみたら?って言ったの。同じ時間じゃなければ、そういうことも減るんじゃないかな?」
聞き返した私の言葉を聞いて、ハッとしたように顔を上げた由紀は口元を緩めながら再度口を開く。
電車の時間・・・か。
確かに、昨日も同じ時間の電車で会ったもんな。
「なるほどね・・・電車の時間・・・」
うーん・・・と悩みながら考え込む。
次の電車にしても学校には余裕で間に合うな。
・・・でも。
「でも、次の電車にしちゃったら課題やる時間無くなっちゃうからな〜」
私は基本的に、課題を家でやらない。
訳分からなさすぎて、学校に来て由紀に写させてもらうことが多いのだ。
だから、いつも少し早めの電車に乗って学校に来ている。
由紀も私が来た時にはもう既にいるから、常習的になってきてしまっていた。
「んもう・・・課題は家でやるものだよ。・・・どうせ、今日の課題もやってないんだろうけど」
「あはは、せいかーい。由紀、見せて!」
呆れ気味の由紀に、両手を合わせてお願いをする。
「全く・・・仕方ないなぁ」
そう言いながら、由紀はカバンの中から終わっている課題を取りだして私に差し出してくる。
「わぁ、ありがと〜!さすが由紀様、マドンナ様!」
少し大げさに感謝しながら、私はその課題を受け取る。
そして、私もカバンから課題を出してシャープペンを滑らせていった。



