結局、あの後は軽い練習試合をしてその まま部活終了となった。
使ったボトルを洗った後、部室へと戻す。
だけど、私はその最中もとある事で頭がいっぱいになっていた。
〝気をつけろよ、辻本〟
部活中に言われた、気をつけろと言う言葉・・・。
それが頭の中で永遠にリピートされていたのだ。
「・・・・・・アイツ・・・あんなこと言うんだ・・・」
洗ったボトルをラックにおいて乾かしながらボソッと呟く。
だって、そんなこと言われるなんて思いもしなかった。
今日の朝、初対面の私に対して「イノシシ女」とか言ったやつだよ?
絶対ボールにぶつかったりしたら「はっ、マヌケ」とかって言われるとおもうじゃん。
それなのに気をつけろって言ったんだよ?
おかしいよね・・・?
だけど・・・階段から落ちそうになった時も、なんだかんだで“気ぃつけろよ”って言ってたな。
それに、教室でいじめっ子に掴まれた時も追い払ってくれてたし。
着替えの最中入ってきた時も、シャツあるところ教えてくれたし。
あれ・・・アイツってなんだかんだで優しい・・・?
“っ──・・・!!なんでもねぇよ、デブ!”
あ、違う。そんなことねぇわ。
なんならあの後叩かれたれてたし、全然優しくねぇ。
ていうか、本当に優しい奴なら初対面でイノシシ女とか言わないし・・・!
女子相手にゾウ並のプレス食らったとか言わないもんな!!!
・・・なんだろ・・・だんだん腹立ってきた・・・。
「・・・考えるのやめよ・・・」
「──なにを?」
「っ!?」
1人で作業をしていたせいもあって、誰かの声に酷く驚く。
振り返ると、そこには由紀の姿があった。
「な、なんだ・・・由紀か・・・驚かせないでよ」
「ふふっ、ゴメンね。こっち片付いたよーって伝えに来たんだけど、茉弘が何が考え込んでるみたいだったから」
口元を押さえるようにしながら微笑んで謝る由紀。
その仕草すら、マドンナと呼ばれる原因なんだろうな。
「大丈夫。ちょっと考え事してて、腹立ってきたから考えるのやめようとしてただけだから」
「──ふぅん・・・そうだったんだ」
床に置いていた荷物を取ろうとしている時、由紀から発せられた言葉とは思いにくいような、冷ややかな言葉が帰ってきた。
私は由紀に背を向けていて顔は分からなかったけど・・・やっぱり、少しだけ冷たい感じがする。
「ねぇ、由紀。大丈夫?」
荷物を持って顔を上げながら質問する。
なんか、今日の由紀・・・なんか変な感じがするんだよな。
「・・・え?大丈夫だよ。なんで?」
顔を上げると、キョトンとしている由紀。
その表情からは、さっきまで感じていた違和感はどこにもなくて・・・。
「あ・・・いや、なんか・・・いつもと違うような気がして・・・。気のせいならいいんだ」
「・・・もう、なに〜?今の茉弘の方が変だよー?早く帰ろ」
いつもの穏やかな表情に戻った由紀は、荷物を背負いながら私に声をかけてくる。
気のせい・・・なら、いいんだけど・・・。
そんなことを考えながら、私は帰路につく。



