由紀が超のつく甘党疑惑が私の中で渦巻いている最中、ふと視線を上げてみると、私の方に向かって勢いよく飛んでくるバスケットボールが視界に入った。
「あっ──・・・!?危ねぇ!!」
「え──・・・」
迫り来るボール・・・恐らく、このタイミングじゃあ避けるに避けれない。
ボールを目の前にして私がとった行動は──・・・。
ベシン・・・!
──ボールを手で弾き落とす、というものだった。
「す、すみません!大丈夫でしたか!?手、痛くないですか!?」
恐らくボールを飛ばしたであろう人がいそいそと私の所まで来てボールを弾いた私の手を取り、赤くなっていないかを見てくる。
「・・・か弱い女子じゃあるまいし、このぐらい平気です。練習に戻ってください」
やんわりと掴まれた手を振りほどき、弾いたボールを手に取り、心配してくれた彼にボールを渡す。
私はか弱い女の子では無い、むしろその逆。
そんな女の心配しても、するだけ無駄。
・・・まぁ、されたらされたでちょっとは嬉しい。
いつも学校じゃあ女扱いされたことなんてないし。
まぁ、そうなったらそうなったで居心地が悪かったりもする訳だが・・・。
「・・・複雑・・・」
チグハグな思考に思わず思ったことが口からこぼれでてしまい、頭を抱えた。
「あ"ー・・・あっつい・・・!」
モンモンと考え事をしていると、Tシャツを裾を掴みバサバサとあおぎながらベンチへと戻ってくる二海の姿が視界に入る。
そう言えば、ボトル作り直したことまだ伝えてないな。
「ねぇ、二海」
「・・・?何だよ」
暑くてかなわない、と言った様子で汗を拭きながら顔をこっちに向ける二海。
「ボトル、飲まないの?・・・最初の一口から全然飲んでないよね?あんなにボトルまだ?って急かしてたのに」
「──・・・・・・!?」
わざと答えにくいような質問を二海にぶつけると、目に見えて慌て出す。
ふっ、ざまぁみろ。
「味、濃いんでしょ?・・・薄めてきたから飲みなよ」
「・・・・・・なんでわかったんだよ、イノシシ女のくせに」
「あんなにわかりやすく固まってたら馬鹿でもわかるっての。・・・ていうかイノシシ女はやめてよ、汗だく男」
ナチュラルにイノシシ女呼びをしてくる二海にべーっと舌を出す。
バツが悪そうにそっぽを向いた二海は、そのまま私の作り直したボトルを手に取って一口飲む。
「・・・・・・不味い」
「文句言うなら飲むな。性悪男」
うえーっと私に舌を見せて“不味い”アピールをしてくる二海。
なんで由紀には文句言わないで私には言うの・・・!?
ほんとむかつく。
「・・・ありがとな、辻本・・・」
「え──・・・・・・?」
今・・・二海、私の事・・・辻本って、呼んだよね?
あの性悪男の二海が・・・!?
私を、名前で呼んだ!?
イノシシ女じゃなくて!?
二海が私のことを“辻本”と呼んだことに驚きを隠せずにいると・・・。
「・・・・・・ぷっ、あほ面」
私の方を見るなり吹き出して笑う二海。
「っ、あんたにだけは言われたくないですぅ~。っていうか、由紀が作ったのには一言も文句言わなかったくせに、なんで私の作ったのには文句言うのさ」
「俺、さっきありがとうって言いましたけどぉ?そんなすぐ前のことも忘れるほど脳みそが空っぽなのかな~」
「いたたたたたたっ、頭わしづかみにしないでっってばっ・・・!」
私の頭に手を置き、グググッと力を入れてくる二海の手首をつかんで抵抗をした。



