──新学期、初日。


高校に入学してからはや1年。



テストでギリギリ赤点を回避できた私は何とか無事、進級を果たした。



そして、十数日ぶりの通学の為、私は最寄りの駅で電車をくるのを待っていた──。



『“間もなく、〇番線に列車が参ります。黄色い線まで下がってお待ちください──”』



美しくもありながら、どこまでも通る声が駅内放送として流される。



私が乗る電車だ。



そして、駅内放送で電車が来ると告げられてから数十秒後。



私の目の前に電車が停車。



空気が抜けるような音を立てながら固く閉じられていたドアが開いた。



中に入ると、人が多すぎるせいかモワッとした熱気が私の体にまとわりついてくる。



春だというのにこの熱気・・・気持ち悪い。



「・・・狭っ・・・」



ギュウギュウ詰めの電車の中でボソッと呟くのと同時に、音を立ててドアが締まった。



新学期早々にこの混み様・・・・・・いつ乗っても嫌になる。



ガタンガタンと徐々に早くなる鼓動が一定になり、眠気が襲ってきそうなゆったりとした揺れが起こる。



でも、その揺れは5つ先の駅まで立ちっぱなしの私にとっては体力を削ぎ落とす揺りかごでしかない。



ハァッ・・・と短くため息をついた後、微かに見える窓から景色を見ようとするためにふと視線を上げた。



・・・・・・その時。



ガタンっ!!



さっきまでの揺れとは比べ物にならないぐらいの大きな揺れが車両に乗っている大勢の人に衝撃を与えた。



もちろん私も例外ではなく、グラッと体制を崩してしまう。



ヤバイと思った時には既に遅く、私は近くにいた人に思いっきりタックルする形になってしまった。



「うぐッ・・・!?」



近くにいた人は苦しそうなうめき声を上げた。



あー、どうしよう・・・。



今完全に鳩尾に入ったよね・・・。



うわ〜・・・申し訳なさ過ぎて顔あげられない。



「いっ・・・てぇ〜・・・!」



私がぶつかってしまった人は、私の肩に手を置いたまま 空いた方の手で鳩尾のあたりをおさえていた。



やはり、と言うべきか・・・サラ艶な茶髪の無駄に整った顔をした男子が控え気味に顔をしかめていた。



しかもこの制服・・・私の通ってる学校のじゃん。


でも、こんなサラ艶髪の茶髪イケメン・・・私の学校にいたっけ?



「す、すみません。大丈夫・・・ですか?」



視線を上にあげると、ぶつかってしまった人とバチッと目が合う。



その瞬間──。



「っ・・・!?」



ぶつかってしまった人は私の顔を見るなり目を丸くする。



そして驚いたような表情を浮かべて肩に置いていた手を物凄いスピードで引っ込めた。



え、なに・・・?



「・・・あの」



「っ・・・早く離れてくれない?・・・足、踏んでるし。重すぎて骨軋むから」



「っ・・・!?」



その言葉を聞いた瞬間、カァっと羞恥心が私を襲ってきた。



ていうか、なにさその言い方!



文句言うにしても、もうちょっとオブラート包んでよ!



仮にも私女だよ!?



一瞬、言い返してやろうかと思ったけど、私はぶつかってしまった挙句、足を踏んでしまった身。



渋々その人から離れてスカートの裾や制服の襟を正す。



その時かなり鋭い視線を送ったんだけど、本人は知らん顔で鳩尾の辺りをさすり続けていた。



「あー、腹いってぇ・・・。どんだけ強く突進してくるんだ・・・。イノシシかよ、テメェは」



「っ・・・!誰がイノシシだって!?確かに強くぶつかったかも知れないけど、それは車両が大きく揺れたからで・・・!」



「それは全員一緒。それプラス、イノシシ並みの突進と足にゾウ並みの重さのプレス喰らってんの、俺は」



ムキになって言い返すと、ぶり返したかのようにぶつかった話をする目の前の人。



しかも、大げさに!



「あーぁ、痛い痛い」



わざとらしく痛そうな素振りをしながら、さっきの衝撃で落ちたカバンを拾おうと手を伸ばす男子。



その人に何も言い返すことが出来ず、その姿を睨みつけながら強く思った。



こいつ、メチャクチャ性格悪い・・・!