原田くんの赤信号

 夕暮れ時。日本での滞在時間が段々と短くなった太陽は、名残惜しそうにその姿を西へと下ろす。

「大丈夫だよ。また明日、会えるからね」

 公園のベンチから見える赤焼けに、そんなことを呟いた。


「ほれ、買ってきたぞ。メロンシャーベット」

 原田くんが退院してから、初めての週末。わたしたちが待ち合わせをしたのは、現実でも夢でも一緒に過ごしたあの公園。
 ベンチ傍に置いたカバンには、原田くんへ渡すチョコレートが入っている。

 こつんと後頭部に冷たい何かがあたって振り向くと、そこには赤いパーカーを羽織った原田くんが、アイスが入った袋を携え立っていた。

「あ、ありがとうっ。一緒に買いに行かなくてごめんねっ」

 そう言えば、原田くんが呆れ笑う。

「本当だよっ。よくよく考えてみたら、なんで俺が奢ってんだよ?普通退院祝いとかなんとかで、瑠美が奢る方なんじゃない?」
「あはは。たしかにそうだよねっ」
「ま、べつにいいけどさ。俺も今日はメロンシャーベットにしてみたよ。瑠美の真似っこで」

 そう言って、わたしの隣に腰をかける原田くん。
 デートを申し込んで実現したところで、ふたりの距離は変わらない。
 同じ椅子に座っていても、それは友だちの距離。

「原田くん、いただきます」

 メロンシャーベットを食べようとしたその時、さらりと秋めいた風が吹いて、カーディガン姿だったわたしの身が微かに震えた。

「瑠美の格好、寒くね?」
「だ、大丈夫っ」
「ぜってー嘘。震えてんじゃん」

 薄着すぎ、と言った原田くんは、自身のパーカーをわたしにかけてくれた。

「俺は平気だから、それ着てなよ」
「あ、ありがとう……」

 原田くんの服。まだ彼の温もり残る、赤い服。まるで、原田くんに包まれているみたいだ。

 わたしの胸はきゅんきゅんと、小鳥のように(さえず)った。