「ふ、福井くん!ブロック賞おめでとぉ!」

 どうしてもおめでとうが言いたくて、部活に向かう福井くんの背中にそう叫んだ。
 いや、叫ぶつもりなどなかったが、勝手に声が大きくなった。

 体育館を背景に、ふふっと微笑む福井くん。

「ありがとう瑠美。自分でもビックリだよ、こんなありがたい賞が貰えるなんて」
「すごいね福井くんっ。バレーボールは高校からでしょ?春から始めて、もう先輩たち追い抜かしちゃうなんてすごいっ。これからも頑張ってね!」
「ありがとう。次の試合は来月頭にあるから、もしよかったら瑠美も観に来てよ」
「うん!絶対、絶対行く!」

「ばいばい」と福井くんに手を振って、美希ちゃんが待つ正面玄関へと踵を返す。

 その時──

「原田、くん……」

 壁にもたれかかった原田くんと、目が合った。

 運動系の部活には所属していない原田くん。まるでわたしが、体育館付近(ここ)に来るのを知っていたかのよう。

 時が止まる。視線は互いに逸らさない。

「原田くん、ばいばいっ」

 時計の針を動かしたのはわたしだった。一緒に帰ろうと誘うような仲ではないから、ここで別れを告げる。

 けれど。

「え……」

 原田くんにはふいと無視された。挨拶もなく、手を振られるでもなく、背を向け歩んで行かれてしまった。

「原田くん……」

 わたしはそんな原田くんの背中が消えるまで、彼の後ろ姿を目に入れ続けていた。