ねえ原田くん、必死すぎておかしいよ。これだけ誘ってくれるのに「好き」だけは絶対に言わないんだもん。

 ねえ原田くん、おかしいよ。本当おかしすぎて、なんだか泣きそうになってくるよ。

「わたしは……福井くんの家に行きます……」

 原田くんが敬語を使ってきたからか、わたしも思わず敬語になった。

「原田くんとは、過ごしません……」

 まるで、友達でもないみたいだ。

 茜色の空を見上げたかと思ったら、原田くんはすぐに俯いて、赤いキャップのツバで顔を隠した。

「……わかった。それが瑠美の選択だもんね」

 夕陽と帽子、それに頬も少し、赤く見える。

 失望されたように感じ、どこか申し訳なくなったわたしは「ごめんね」を伝えようと思い、原田くんにそっと近寄った。

「は、原田くん、ご──」

 でもいきなり。

「えっ」

 いきなり原田くんに抱きしめられたから、何も言えなくなった。

 加速する鼓動が、胸で騒ぐ。

「瑠美ごめん……」

 原田くんは、掠れた声でそう言った。

「瑠美……ごめんね……」

 どうして原田くんが謝るのか、何に対してのごめんなのかは、わからない。

「本当にごめん……」

 ずっと拒否しているのは、わたしの方なのに。

 原田くんのその「ごめんね」は、すごく辛そうで悲しそうで、今にも泡沫のように消えてしまいそうだった。

 もう原田くんには会えないのかもしれないと、そう感じるほどに。


 帰宅し、今日購入したバレンタインデーグッズを部屋の床に広げてみる。
 チョコレートよりも何よりも、一際目をひくのは赤と緑の包装紙。
 二枚並んだそれは、まるで信号機のようだった。

 福井くんのもとへ行きたくてわたしは青信号を進むのに、いつも原田くんの赤信号が「行くな」「やめろ」と止めてくる。いい加減「いいよ」と言ってくれないと、赤のままでは誰も進めやしないじゃないか。

 青信号は安全で安心していい証拠なのだから、そんなにムキになってまで、引き止めないで欲しいよ。

 ねえ原田くん。あなたがわたしの赤信号になる理由は、一体何ですか。