「やっぱり頑張って帰ろうかな」
「おいっ」

 十分ほど経過してもなお、強い雨音。やむことを諦め、立とうとしたわたしの腕を、原田くんは引っ張って止めた。

「やむから待ってろって」

 上下に動かす黒目で『座れ』と言ってくる原田くん。わたしはとっくにギブアップモード。

「無理だよ。こんなに降ってるし、絶対やまないでしょ。それってあと、何時間後の話?」
「んなことないよ、すぐやむって」
「やまないよ」
「やむ」
「やまない」

 腰を屈めた中途半端な体勢に、わたしは原田くんのその手を振り払おうと、腕を左右に振った。

「まじで、すぐやむからっ」

 けれどそれは、彼の力で押さえつけられてしまう。

 鼻からこれ見よがしに吐いた息で、露骨に不快を表現してから、わたしは再び腰を下ろす。先ほどよりは数十センチくらい原田くんから遠い、そんな離れた場所で。

 原田くんは『自称天気博士で意地悪で頭の良いしつこい変な人』だ、とまた新たに刻まれる彼の異名。

 ザアザアと、雨は更に強くなる。