「前向きだな」
 困ったように唇の片方だけを上げて笑うハインツ先生にとびきりの笑顔を返す。

「わたしを前向きにさせているのはシャドウなんです。シャドウのためにわたしも正々堂々と潔くあり続けようって思えるんですから」

 ハインツ先生がわずかに目を見開いたと思った次の瞬間、わたしは彼の腕の中にいた。

 息もできないほどにぎゅうっと抱きしめられたのはほんの一瞬。
 すぐにその温もりが離れて、黒いローブが翻った。

「すまない。忘れてくれ」

 研究室から出ていくハインツ先生の足音が聞こえなくなった頃にようやくわたしは息を吐いた。

 わ、わ、忘れられるもんですかっ!!

 わたしと同時にシャドウまでもが身悶えながら崩れ落ちたのだった。