ハインツ先生と一日の半分を研究所で過ごすようになって二か月が過ぎようとしている。
 途中でライトが研究室の一員に加わり、彼はハインツ研究室の「看板猫」になった。
 
 シャドウとわたしの関係は良好で、わたしはシャドウのことを親友もしくは妹のように思っている。
 シャドウとライトも相変わらず仲良しで、暇さえあればじゃれ合っている。
 
 ハインツ先生がこの現状をどう思っているのかはよくわからない。
 ただ、わたしがシャドウに対してしてあげたいと思っていることの大半を許し、鷹揚に構えていてくれるハインツ先生にはとても感謝している。
 わたしの監視役がもし父だったりしたら、あれダメこれダメと禁止事項ばかりでさぞやつまらない日々を送っていただろう。

 神経質で不愛想な人だと思っていたハインツ先生の印象は随分変わった。
 物静かであることは間違いないが、こちらへの気遣いが感じられるし、お互い無言で文献を読んでいる時間の心地よさに懐かしさを感じるのはなぜだろうか。
 もしかすると、わたしが第2師団で働いていたときも、こうして二人っきりで資料を読むような作業をよくしていたのかもしれない。
 
 ハインツ先生には奥様がいるのだから、好きになってはならない人だ。
 そうわかっていても、どうにもコントロールできないのが恋心というやつなのかもしれない。

 毎朝彼に会うのを楽しみに学校へ通っている。
 彼の長い指や、艶やかな黒髪に触れたくなってしまう。
 彼がほかの女子生徒たちと談笑しているのを見るとモヤモヤしてしまう。

 わたし、どうやらハインツ先生が好きみたいだわ。
 心の中でシャドウに話しかけると、シャドウはそんなのとっくに知っていたとでも言いたげにクスクス笑った。