「もう恋だと思うんですよね」

 そう言うや否や、ハインツ先生は突然立ち上がってわたしに歩み寄ると、両肩をガシっと掴んだ。
「誰に恋したんだ!?」

 いやいや、ちょっとどうしたんですか。

「シャドウの話ですよ。絶対、ライトに恋してますって」

 シャドウのキュンキュンがこちらにまで伝わって来て、わたしまでなぜかハインツ先生にキュンキュンしてしまうのだから、正直困っている。

「そうか、取り乱してすまなかった」
 ハインツ先生がふうっと息を吐いて椅子に座り直す。

 もしかして、わたしが誰かに恋をしていると勘違いしたんだろうか。
 まあそれは確かに一大事よね。
 シャドウを抱えたままじゃ、恋も結婚もできないんだもの。
 万が一、手ひどい失恋でもすればその負の感情をシャドウが吸い取ってしまうかもしれないというリスクまであるんだから。

 
 だからせめて、シャドウの恋を応援したいと思っている。
 そこでハインツ先生にひとつ頼みたいことがあった。

「わたしの姿を猫に変えてもらえませんか?」

 姿かたちを自在に変える変身魔法は高度な魔法だが、ハインツ先生ならお手の物だろう。
 猫の姿になってシャドウとライトを思う存分遊ばせてあげたい。

 しかしハインツ先生は眉をひそめて首を横に振った。
「やめておいたほうがいい」

「大丈夫です、シャドウに乗っ取られたりしないようにしっかり意識を保っておきますから!それにハインツ先生の目の届かない所には行かないようにします。ですからどうか…」

「いや、それよりももっと深刻な問題がある」
 ハインツ先生の顔がさらに険しくなる。

 シャドウに意識を乗っ取られるよりも深刻な問題って!?

 固唾をのんでハインツ先生を見つめた。

「非常に言いにくいんだが……きみが変身する猫は、とてもブサイクなんだ」

 な、な、なんですってえぇぇぇぇっ!