「あれ、この子…」
 シャドウの影が見えるの?

 そう思いながらじっと足元を見ていると、なんと今度はシャドウのほうがわたしの肩からつま先の方へと移動し始めるものだから驚いて思わず大きな声が出た。

「うわっ!」
 シャドウって、肩だけじゃなくてわたしの影があるところならどこへでも移動もできたの!?

 つま先で猫型の影になったシャドウは、灰色の猫と一緒に遊び始めた。

「ハインツ先生!シャドウにお友達ができましたよっ!」
 これはシャドウの情操教育上、とても喜ばしいことではないだろうか。
 
 手を叩いて喜ぶわたしの隣で、ハインツ先生はまた厄介なことになりそうだとでも言いたげにため息をついたのだった。
 
 
「この猫は研究室所属にしましょうよ。シャドウの大切なお友達ですから!」

 その日から毎日、ハインツ先生とのランチは中庭のベンチで食べるようになった。
 灰色の猫には「ライト」という名前を付け、ライトは毎日お昼になるとわたしたちを待っているかのようにベンチで寝そべっている。
 
 いきなり捕まえて無理に研究室に連れて行くような乱暴なことはせず、根気強く少しずつ警戒心を解いていくうちに膝に乗ってくるようになり、シャドウとの仲も深まり、出会いから1か月経ったところでライトはハインツ先生の研究室を寝床とするようになったのだった。

 その間、ハインツ先生が粘り強く校長先生に研究室で猫を飼う許可を求めて交渉していたことを知ったのは随分あとになってからだった。