ーーいよいよ今日から、待ちに待った夏休み。少し前に返ってきた期末テストは、めちゃくちゃいいってわけじゃないけど自分の中では小躍りしたい位の点数だった。

特に数学は八十五点という快挙。中学時代から毎回赤点スレスレを逃れるレベルだった私にしては、信じられない高得点。

わざわざ時間を割いて教えてくれた三苫さんには、本当に感謝だ。

テストが返ってきた日の夜にすぐメッセージを送ったら、おめでとうって可愛いスタンプと一緒に「今度お祝いしよう」って返ってきた。

カテキョのバイト代を受け取らない三苫さんに、お父さんと相談してコンビニとかで使えるプリペイドカードを買った。

結局現金みたいなものだけど、物は何を買っていいのか分からないしかといって何もしない選択肢はない。

夏休みの補習を免れたのは、他でもない三苫さんのおかげだから。




「はよ」

「あ、おはよ」

朝から暑くてリビングのソファでグダッていた私に声をかけたのは、颯君。

お父さんと陽子さんははれて夫婦となり、私と颯君も同い年の姉と弟という関係になった。

「今日も部活?」

「うん」

「暑いのに毎日大変だねぇ」

手でパタパタと自分を仰ぎながら、ふにゃっと笑った。朝はなんか、力が入らない。

お母さんが死んでからずっと二人暮らしで広く感じてたこの家は、陽子さんと颯君が来てから随分賑やかになった。

陽子さんは税理事務所で働いてるから日中は居ないし、颯君もバスケ部の練習で帰りは遅い。

だけど今までお父さんは店だったからいつも一人で食べてた夕飯が、三人になって。

二人共ビックリする位この家にすぐ馴染んで、陽子さんはお父さんより丁寧にお母さんの仏壇に毎日手を合わせてる。

颯君は表情豊かなタイプじゃないけど、それでもなんとなく懐いてくれてるのが分かる。

私より二十センチ以上背の高い颯君だけど、凄く可愛い。

高一でいきなりできた姉を嫌がらない、いい子だ。




「今日、練習午前中で終わりなんだけど」

「そうなんだ、良かったね」

「それで」

「うん?」

「どっか、行かね?」

「えっ?私と二人で?」

「ダメ…?」

「ううん、いいよ」

私の返事にパッと輝いた颯君の顔が、胸にドキュンときた。

失礼だから本人には言えないけど、ワンちゃん飼うってこんな感じかなって思う。