13歩よりも近い距離

「岳ーっ。学校行くよー!」

 今日も口元で、メガホンを作る。

「給食はエビフライだってーっ」

 今日はなかなか窓が開かない。腕時計に目を落とした私は、小石だけをぶつけておいた。


「え。とうとう岳くん、シカト攻撃?」

 今朝の話を奈津にすると、彼女は爆笑。指で目頭を押さえていた。

「告白してもだめなら登校拒否で、それでもだめならフルシカト!いやあ、岳くんまじですごいっ。普通なら諦めるよね、そんなのっ」

 パチパチと手を叩きながら、岳を賞賛する奈津の気持ちに、私はちっとも寄り添えない。岳のことでふうっと吐く溜め息は、果たして今日で何百回目か。

「シカトも困るけどさ、岳ってば食事までしなくなってきてるんだよ」
「え、なんで」
「知らなーい。ハンガーストライキとかいうやつじゃない?こっちを脅す為のひとつの行為だよ。ゴールデンウィークも飴ばっかり舐めて、ほとんどご飯は食べないの。どんどん痩せてってる」

 ばかだよね、と奈津に同調を求めるけれど、彼女は腕を組み、何やら思いに(ふけ)っている。

「奈津、聞いてる?」

 私が彼女の顔の前で手の平を行き来させると、停止していた彼女の黒目が動いた。

「あ、ごめんっ。なんかまじですごいなって思っちゃって」
「だよね」
「そこまでするなんて、他に目的でもあるみたい」
「他の目的?」
「目的っていうか他の理由っていうか。うーん、ごめん、うまく言えない」

 不登校に無視にハンガーストライキ。岳がそうなった、他の理由。少し考えてみたが、すぐに答えの出せなかった私は話を戻した。

「だからさ、私ももう、放課後は行くのやめようと思って」
「岳くんの家?」
「うん。朝に無視された日は、岳のとこ行かない。だって私だけが歩み寄ってたら、岳の勝ちじゃんっ」
「あ、また勝敗絡めた」
「だって〜」

 こんなんじゃ、どちらが追いかけているのか分からないじゃないか。