13歩よりも近い距離

「すずたん」

 誰かが私を呼ぶ声がする。

「すずたん、ねえすずたんっ」

 ああ、これは小さい時の私の声だ。自身のことを、私はこう呼んでいた。

「ねえすずたん、起きて」

 え?

「岳ちゃんがっ」

 岳?

「岳ちゃんが苦しそうっ」

 
 ばっと勢いよくシーツから背を剥がせば、唸る声が横から聞こえてきた。慌ててスマートフォンの明かりを灯し、岳を見やる。

「岳っ」

 そこには額に汗を滲ませて、眉を顰め(うな)されている岳の姿があった。瞼を下ろしたままの彼は起きているのか寝ているのか判別できぬが、私は彼の身体を揺さぶった。

「ど、どしたの岳っ。どこか痛いの?」

 何度か揺らせば、細い目と目が合った。

「すず……」
「どうしたの岳、どこか痛いの?苦しいの?」

 彼はゆっくりと身体を起こす。背中までびっちゃり汗をかいている。

「怖い、夢みた……」

 頭を抱えながら、岳は言う。私は彼の腕をさすった。

「どんな夢……?」

 ドクドクと心臓が(やかま)しいのは私だけではないとそう思うのは、岳が自身の左胸辺りの服を鷲掴んでいるから。

「どんな、夢みたの……?」

 岳が恐怖に包まれたその夢をシェアできれば、少しでも彼の気分が軽くなるんじゃないかと思いそう聞いたけれど、彼は項垂れ、乱れた呼吸を整えるだけで、何も教えてはくれなかった。


 岳と過ごしたゴールデンウィークは、丸一日家でゲームをする日もあれば、丸一日遠出をした日もあった。
 岳は相変わらず食が細くて、「もっと食べなよ」と私が言えば、「じゃあ俺と付き合って」と返された。登校拒否に続いて今度は、ハンガーストライキまでされたのでは、こっちはたまったもんじゃない。これで仮に彼が栄養失調で死んだりでもしたら、私は加害者になってしまうじゃないか。

「ずっと同居できたらいいのに」

 同居解消日。岳の言葉。

「もうすずさ、俺の中で住んじゃえば」

 自身のことを指でさし、そんな冗談めいたことを真剣な瞳で言えた彼には、脱帽しかけた。