その後すぐにトイレへと立った岳は、半分以上残ったフルーツサンドをゴミ箱に捨てていた。私のカツ丼も、三割は同じボックスへ。あれだけ鳴いていた腹の虫は、不気味なほどに治った。
食欲と共にテンションも衰退。あんなにも色鮮やかに見えていた花畑が、モノクロの如く色褪せる。会話もない帰りの電車は、ひたすら窓の外を眺めていた。
自宅付近で、私は重い口を開く。
「今日はもうこんな雰囲気になっちゃったし、岳の家には行かないね」
ばいばい、と手を振ろうとするが、その手は岳に掴まれた。
「は?約束ちげえじゃん。まだ二日目だぞ」
ピアノの鍵盤、左端の方の声でそう言われ、少し怯む。
「だって、岳といてもつまんないもんっ」
そう言うと、岳の瞳が狭まった。
「きゅ、急にテーブル叩くし、帰りだってなんも喋らないし……このまま今日岳と一緒にいても、つまらないっ」
岳の手から逃れる為、身体ごと後ろへと反らせるが彼には敵わない。代わりにググッと力を込められて、ふたりの手は宙で静止した。
「岳、離してっ」
上目で彼を睨みつけて、牙を剥く。
「離してってば!痛い!」
腹の底から目一杯声を張り上げると、彼の強気な表情が瞬時に萎えた。
ぽたん。
その時岳の瞳から零れ落ちた雫に、呼吸の仕方を忘れかける。
「行かないで、すず……」
岳が泣いた。驚いた。
「お願いだから、一緒にいて……」
ぽたんぽたんと次々涙の雫を落とし、皺くちゃ顔で、子供のように泣きじゃくり出す。
「が、く……?」
「一緒にいてよ、すずっ……」
一瞬にして思い起こされたのは、昔の記憶。私が岳を大切に守っていた、幼きあの日々。私より身体が小さくて、か弱かった岳で頭が埋め尽くされれば、私は彼を抱きしめていた。
「岳」
震える身体、ひっくひっくと時折波打つ。
「岳、泣かないで」
撫でる頭は、もうつむじまで届かない。だけど岳が、あの頃のように小さく見えた。
食欲と共にテンションも衰退。あんなにも色鮮やかに見えていた花畑が、モノクロの如く色褪せる。会話もない帰りの電車は、ひたすら窓の外を眺めていた。
自宅付近で、私は重い口を開く。
「今日はもうこんな雰囲気になっちゃったし、岳の家には行かないね」
ばいばい、と手を振ろうとするが、その手は岳に掴まれた。
「は?約束ちげえじゃん。まだ二日目だぞ」
ピアノの鍵盤、左端の方の声でそう言われ、少し怯む。
「だって、岳といてもつまんないもんっ」
そう言うと、岳の瞳が狭まった。
「きゅ、急にテーブル叩くし、帰りだってなんも喋らないし……このまま今日岳と一緒にいても、つまらないっ」
岳の手から逃れる為、身体ごと後ろへと反らせるが彼には敵わない。代わりにググッと力を込められて、ふたりの手は宙で静止した。
「岳、離してっ」
上目で彼を睨みつけて、牙を剥く。
「離してってば!痛い!」
腹の底から目一杯声を張り上げると、彼の強気な表情が瞬時に萎えた。
ぽたん。
その時岳の瞳から零れ落ちた雫に、呼吸の仕方を忘れかける。
「行かないで、すず……」
岳が泣いた。驚いた。
「お願いだから、一緒にいて……」
ぽたんぽたんと次々涙の雫を落とし、皺くちゃ顔で、子供のように泣きじゃくり出す。
「が、く……?」
「一緒にいてよ、すずっ……」
一瞬にして思い起こされたのは、昔の記憶。私が岳を大切に守っていた、幼きあの日々。私より身体が小さくて、か弱かった岳で頭が埋め尽くされれば、私は彼を抱きしめていた。
「岳」
震える身体、ひっくひっくと時折波打つ。
「岳、泣かないで」
撫でる頭は、もうつむじまで届かない。だけど岳が、あの頃のように小さく見えた。



