13歩よりも近い距離

 岳がクローゼットから引っ張り出したトレーナーを、ほれっと胸元に放られて、キャッチする。

「ココア溢したそのスウェットのまま俺のベッドで寝るの禁止ー。それ、着て」
「ああ、ごめん。ありがとう」

 スウェットの下には長袖を纏っているから、この場で着替えることに抵抗はなかった。しかし着替え終わって、ふと抱く疑問。

「私、岳のベッドで今日寝るの?」
「うん」
「岳はどこで寝るの?」
「ベッド」
「ふたりで?」
「うん」
「この狭いシングルのベッドで、ふたりで?」
「うん」

 なんだかもう、反論する気にもならなかった。何故ならここは、異世界だから。


 歯を磨き終えた私がベッドの壁際へと身を寄せると、明かりを消した岳も隣へやってくる。間近で香る、彼のシャボン。

「お、おやすみっ」

 そう告げて、私は壁の方を向く。

「おやすみ、すず」

 岳がそんな私に触れることは、一切なかった。