13歩よりも近い距離

「おー。来たな」

 岳の部屋の扉を開けると、彼はリラックスモードでベッドへ横たわっていた。手にしていたスマートフォンを伏せて置き、上半身をむくりと起こす。

「今日から五日間よろしくなっ」

 うん、よろしくね、などと言えるはずもなく、私は黙ってドライヤーのプラグをコンセントへ繋げる所作。ゴオッと電源を入れればすぐに、岳は私の背後へまわった。

「やってやるよ、すずの髪」
「は、はあ!?いいよ、自分でできるしっ」
「いいからっ」

 半ば強引にそれを奪われて、髪の毛に数本の指を差し込まれる。熱い風、岳の指。またぽっぽと顔が火照りいく。

「すずの親、まじで反対しなかったんだ」

 熱風の隙間から、岳の声が抜けてくる。私は壁に目を向けながら答えた。

「しなかった……私のお母さんも岳のお母さんも、私たちのことまだ五歳くらいに思ってるんじゃないの……」
「はは、そうかもなっ」
「こんなの絶対だめだと思うけど……」

 その言葉に、岳は何も返さなかった。暫く強い風の音だけがして、そして止まる。

「じゃあ俺も、シャワー浴びてこよっかな」

 その瞬間、ぼんっと何かが噴火した。
 山など近辺にはない閑静な住宅地なのに、この煙はどこから噴いているのだろうと思ったら、真上を見て判明した。それは己のてっぺんから出た、他者には見えぬ湯気である。それに比例するように、顔面は活火山の如く赤くなる。

「もう、いやだあ……」

 こんなさま、岳には見せられないと両手で顔を覆い隠す。しかし時既に遅しというのはこのことで、ちゃっかり岳に楽しまれていた私の反応。彼は嬉しそうにこう言った。

「俺、ようやく幼馴染枠から脱出だなっ」

 岳がシャワーを浴びているその間は、彼の言葉がずっと頭で木霊(こだま)していた。