今から、緑川(みどりかわ)(がく)という男を説明しよう。

 歳下のくせに偉そうで、自分はひとりでなんでもできると思っている。いつの間にやら背が伸びて、私の手が届かぬものをひょいと取る。
 小さい頃は私に守られてばかりいたくせに、今では守られるどころか私を心配してくる。サボる、眠る、授業中はこのどちらからしいけれど、体育と給食中は人一倍元気らしい。

 性格は素直じゃないし我儘だ。でもそれは、互いに同じだから強くは言わない。そしてこんな面もある。

 貸した百円は三か月ほど返ってこないが、思い出せば「悪かった」と二百円を寄越してくる。彼が頬張る菓子に視線を送れば、「やるよ」と言ってけっこうくれる。散々人を揶揄(からか)うくせに、一度(ひとたび)こちらが泣けば平謝り。
 男女問わずに友達が多く、意外と顔がいいのでモテたりもする。彼はそんな男です。

 だから私はこう思う。彼が引きこもるなんて、おかしいと。