莉子と離れて俺は思った。
莉子のようになりたい、と。
莉子にとって俺は彼氏だったとしても数ある莉子の周りの人間の中の1人で、離れてしまえばそれは余計顕著になった。
莉子にとって俺は重要な人物ではない気がした。
俺がいなくても莉子は1人ではなく、楽しそうだったから。
でも俺は?
俺には莉子だけで誰もいない。
友だちの1人もいない俺は莉子の隣に相応しいのだろうか。
社交的で優しい莉子。
きっとこれからもどんどんいろいろな人と繋がって認められて生きていく。
そんな莉子の隣が誰にも認められていない根暗な俺でいいのだろうか。
そう思ってしまい、不安になった。
何日も何日も眠れない夜が続いて、こうしている間にも莉子は俺のことなんて忘れて誰かと笑っているのかな、て思うと、どんどん苦しくなった。
だから莉子みたいになろうと思った。
何日も悩んで俺はそう決めた。
東京は簡単に俺を変えられたし、変えられた俺の周りにはあっという間に人が集まった。
俺は少しづつだが、莉子に誇れる自分になっていた。
それなのに。
『別れよう』
スマホ越しに莉子の暗い声が聞こえる。
今日もいつものように莉子のようになる為にサークルの飲み会に参加していた。
そしたら莉子からこんな電話がかかってきた。
冗談を言っているようには聞こえない。
『別れて欲しい』
「待って。何言っているの。急にそんな」
莉子の言っていることがうまく理解できない。
理解し難い。
「もう耐えられないの。急じゃない。私はもう限界だから…」
『…俺のこと嫌いになった?』
お願いだから否定して欲しい。
そうして俺を安心させて欲しい。
莉子はきっと俺が嫌いだから別れたいなんて言っているのではない。
遠距離に耐えられなくなったのだ。
だから俺と別れたいのだ。
俺は何とかそう自分に言い聞かせて、莉子の気持ちを聞いた。
今すぐ莉子の気持ちを聞いて安心したかった。