「……オレの寿命、縮めないでくれる?」
 

そう切なげに呟いて、彼は私の頭に顔を埋める。

ぴったりとくっついているせいで、渓くんの掠れた低音ボイスがダイレクトに鼓膜を震わせた。


どうやら、かなり心配を掛けてしまったみたいだ……。


「ご、めん…なさい……」


戸惑いながらも素直に謝れば、渓くんはさらに私をきつく抱き締めた。

この状況に、心臓はあり得ないくらいにバクバクと早鐘を打つ。

渓くんの香りに、酔ってしまいそう。


「……なぁ、翠、」


身じろぎ1つ出来ずにいる私の名前を、渓くんが呼ぶ。


「何でさっき逃げた?」

「そ、れは……」

「仁藤とお幸せにって、どういう意味?」


そっと私から身体を離し、漆黒の瞳がその中に私を閉じ込める。


「……だって渓くんは、佐和さんと結婚するんでしょう?」

「……は?」

「だから同居を解消して欲しいって、それを今日私に伝えるつもりだったんでしょう……?」


私が泣きそうになりながらそう言えば、渓くんが「はぁ……、」と脱力したように私の隣にドカッと座った。