ーー翠と初めて会ったのは、あいつが10歳でオレが22歳の夏。

母親を失って元気を無くした翠に、蒼(そう)がオレと仁藤を引き合わせた。

蒼に似て、とても綺麗な顔の造形をしていた翠。

最初こそにこりともしなかった翠だったが、休みの度にあいつらと一緒に遊園地やら水族館やらに連れ出しているうちに徐々に元気と明るさを取り戻し。

夏が終わる頃には翠はすっかりオレや仁藤に懐いていた。


無邪気で天真爛漫な翠をオレも妹のように可愛がっていて。たまに甘やかそうとすれば蒼に怒られた。


そう。あの頃の翠は、間違いなくオレにとって"大切な妹のような存在"だった。

それが中学生になり、高校生になり。

無邪気な笑顔には昔の面影があるのに、蕾が花開くようにどんどん大人っぽく綺麗になっていく翠に、ドキッとさせられることが増えたのは、いつからだったか。

うちの縁側が大好きだったくせに、大きくなるにつれてうちから遠のいて行った翠に寂しさを感じるようになったのも、いつからだったか。

それを、オレは親離れしていく子供に感じるような類の感情だと、そう思っていた。


ーーあの時までは。