「……渓くん……っ⁉︎」


ハァハァ、と肩で息をしている様子が背中にくっついた身体から伝わって来る。

私を、追いかけて来てくれた?

っていうか"オレの"って、言い方……!

この期に及んで不覚にもきゅんとしてしまったじゃないか……!


「ったく、お前は……!言いたいことだけ言って逃げてんじゃねーよ……!おまけに逃げ足速ぇーし、焦ったわ……。しかもこんなところで口説かれてるとか……。お前あとでまず説教な。覚悟しとけ?」

「えっ……!」


拘束されたまま何とか首だけを捻って渓くんを見上げれば、すっ、と細められた瞳が私を見下ろしていた。

う……、怒ってる……。


「……で、その後オレの大事な話、するから。ちゃんと聞け」

「……はい……」

「上に部屋取ってある。行くぞ。悪いな、若造」
 
「へっ、部屋……⁉︎」


「えっ⁉︎そ、園田さんっ⁉︎」


私の拘束を解いた渓くんは、今度は私の手を引きズンズンと歩き出す。


「ご、ごめん、大谷くん……っ!詳しいことは、また会社で説明するから!本当にごめん……っ!」


背中に投げ掛けられた私以上に戸惑いを露わにした声に、私は振り返ってそれだけを返すのが精いっぱいだった。