会社の最寄駅で渓くんと別れた後、その背中が人混みに紛れるまで見送っていれば、「翠」と後ろから声を掛けられた。

振り返ればそこにいたのは沙織で。


「……誕生日オメデト」

「ありがと」


すごく、複雑な顔で告げられた。


「……骨は私が拾ってやるから安心しな」

「ははっ。よろしくお願いします」

「でさ、今度大谷に頼んで合コンでもセッティングしてもらお。あんたが他に目を向けたら彼氏の1人や2人、すぐ出来るから」

「……えー、2人はいらないかな」


眉を下げて苦笑すれば、沙織が私の頭をくしゃりと撫でた。


渓くんと一緒に出るから、私の出勤時間は割と早めだ。

沙織は普段こんなに早く出勤しないはずだけど、今日が決戦の日だと知っている彼女は、多分私を心配して待っていてくれたんだろう。

この親友は、情に薄そうに見えて本当はすごく厚いことを、私は知っている。


「……沙織」

「何?」

「大好き」

「……知ってる」

「ふふ。待ってよ」


沙織が照れ臭そうにプイっとそっぽを向いて歩き出すから、私は笑いながらその後を追い掛けた。


ーー大丈夫。沙織もいてくれるから。

私はきっと、ちゃんと伝えられる。