『ーーお前は1人じゃない。1人には、しない』


次の瞬間、凛とした力強い声とは裏腹に躊躇いがちにそっと彼の胸に引き寄せられる。

その言葉に、その温もりに、ピンと張り詰めていた糸が緩んで、みるみる内に私の瞳からは大粒の涙が溢れて来た。

兄を失ってから、初めて涙が出た瞬間だった。

ひっく、ひっくとしゃくり上げる私の背中をぎこちない手つきでさするその優しさが、さらに涙を誘う。


彼の胸の中で、私はしばらく子供みたいに声を上げて泣いた。




"1人じゃない"



そう思えることは、それだけでとても心強かった。


だからあの時、ついその手に縋ってしまったけれど。


それと同時に私は誓ったのだ。




"この手を離す時は自分から"




兄との口約束を律儀に守ろうとする、このぶっきらぼうだけど優しいこの人を、私はなるべく早く解放してあげなければいけない、と。




梅雨明けが宣言されて本格的な夏の暑さがやって来た、7月。



遠くに蝉の声を聞きながら、私はあの時確かにそう誓ったはず、だったのにーー。