「はは、こんなデカくなったのに、寝顔は子供の頃と全然変わんねー」


そう溢す渓くんの声は、とても柔らかい。

夢の中の渓くんは、何だかいつもよりも優しいみたいだ。


「……なぁ、翠……」


渓くんが私の名前を呼ぶ。

頭にあった温もりがするすると下へ降りてくる。

そしてそっと頬を撫でる、優しい手。



「ーーーあの男……、いや、何でもない。……誕生日の日、お前は、受け入れてくれるのか?それともーーーー」



それに身を任せていれば、少し掠れた切ない声が鼓膜を揺らした。

渓くんのこんなに不安を帯びた声も、今まで聞いたことはない。

その声に、私の心臓はきゅう、と締め付けられて。


だいじょうぶ。だいじょうぶだよ、渓くんーー。


音にはならなかったけれど、私は心の中で必死に呟いた。


そしてその直後、ふわりと身体が宙に浮く感覚がして。




「……っんとに、毎回毎回何の苦行だこれ……」




夢現(ゆめうつつ)の中で聞こえたそれを最後に、私の意識は完全に途切れたのだったーーーー。