「いやー、翠ちゃんとお酒飲んでると何か涙が出そうになるわー。本当に大きくなったわねぇ……!」

「ふふ、佐和さん、それ毎回言うー。まるで親戚のおじちゃんみたい」

「えぇー、そこはせめておばちゃんにしといてくれる⁉︎」

「あはは!」


おそらくこの世のどこかには存在しているのであろう親戚に私は一度も会ったことはないけれど。

"久々に会った親戚が言いそうなセリフランキング"なるものがあったとしたら間違いなくベスト3には入っていそうなセリフをしみじみこぼした彼女は、むぅ、と形の良い唇を尖らせた。

そんな表情すらも絵になってしまうくらい綺麗な彼女は、お兄ちゃんと渓くんの同期であり、かつてお兄ちゃんの恋人でもあった仁藤 佐和(にとう さわ)さん。

お兄ちゃんの葬儀の時にもとてもお世話になった人だ。


この日はそんな佐和さんに誘われて、仕事終わりに馴染みの大衆居酒屋で2人で飲んでいた。


「今日ね、翠ちゃんと2人で飲むって言ったら渓の奴、"オレも行く"って言い出すのよ?だから"お生憎様、今日は女子会なの。渓も女装して来るなら連れて行ってやらんこともないけど?"って言ってやったらめっちゃ嫌そうな顔して退散してったわ。ザマーミロよね」


そう言ってケタケタ笑いながら豪快にビールを煽った佐和さんに、私は吹き出してしまった。