時価数億円の血脈

彼は淡々と仕事して、息抜きに色々な会話をした。
この本が面白いといって渡してくれたのは、小学生の時に流行っていた漫画だったり、彼の学生時代の話で選りすぐりのものも教えてくれた。わたしは少しずつ過去に色づくように記憶が蘇ってくることもあった。懐かしさがたまに掠めた。

４か月後、店長に、病気で退職することにしましたと伝えに行くときには私は車いすに乗っていた。もう、関節をできるだけ最小限に動かしたかった。彼は私が痛がる姿を見ると苦々しく顔を顰めた。彼にカミングアウトをして、私は風俗店で働いていたのといったが、そうか、と言われただけだった。最後に挨拶したいと言ったら車で連れてきてくれたのだ。

ねえ、店長60分17000円の女が時価で数億円で売れるんですって。

心の中でそういった。

「ミッコちゃんは真面目に出勤してくれてたから本当に助かってた、ありがとう」

店長とは長い付き合いだったが、お別れはあっさりしたものだった。