部活が無いのはきっとテスト前だから。
無所属の私は、テストの何日前から部活禁止、だとかそういう詳しいことは知らないのだけれど。
いつもなら掛け声で溢れるグラウンドや体育館からはなんの音も聞こえない。
騒がしいのが好き、とは言い難いけれど、がらんとしているのは寂しい気もする。
…それで、由良くんは何を言ってるんだっけ。
否定肯定する前に、由良くんがよくわからなくて何も言葉を返せなくなる。
「桜名さん」
人二人分あった距離は由良くんが動いたことで一人分に変わった。
「このノート、なに?」
「これは…数学のノートです」
出会ってから数分の、しかも無関係な男の子に見せても困らせてしまうだけだ。
中身を見なければただのノート。きっと嘘が見抜かれることはない、はず。
「…綺麗な色。夢宵桜っていう色もこんな色らしいよ」
数分前に考えていたその言葉が由良くんから出てきたことにびっくりして、思わず「え」と零してしまう。
「俺三月生まれで、夢宵桜が誕生色」
「…私も」
「じゃあ、同じ三月生まれ同士さ、積もる話もあると思うんだよね。特に桜名さんが」
「無いです、ね」