「────柵の向こう側に行くまで、桜名さんに溢れるくらい幸せをあげられますように」
響くほどの大きい声でもない。由良くんがいつも発するような声量。
それなのに耳から離れないような。
私の中に響いて、響いて、胸が苦しい。
目の前に広がるのは、暗闇と星と、月が優しく照らすだけの世界。
そこに入ってきた由良くんは溶けてしまいそうな微笑みを浮かべる。星よりも月よりも、一番綺麗だと思った。
どうして彼は私を願うのだろう。願うものなんてこの世にいくらでもあるはずなのに、どうして。
儚さに思わず手を伸ばす。由良くんはすんなり受け入れた。
「...お願いごと、言っちゃったの?」
「七夕の願い事って願掛けだから。織姫じゃなくて、俺が叶えるよ。桜名さんの幸せは俺しかあげられないから。
一番星に宣言したら叶いそうじゃん」
「ふふ、なにそれ」
指と指の間に由良くんの温もりが伝わって、笑っているはずなのに涙が零れる。
もう、たくさん幸せを貰った。
夜眠る時、朝起きた時、思うことは「いなくなりたい」だった。
明日は目が覚めませんように、全部夢でありますように。そればかり願って毎日を過ごす。後ろばっかり振り返って下を向いていた。