恋愛のススメ

「……何て言ったら、真理亜がドキドキする理由が俺になんの?」

思わず春馬の腕を振り払う。

振り返って、鏡越しじゃない春馬を直接見ようとしたら、春馬の掌が私の顎に伸びて強引に前を向かせた。

鏡に映った私は、驚く程に真っ赤な顔をしていた。春馬が意地悪く口角をあげた。

「真理亜、顔、真っ赤。良かった、ちゃんと俺にもドキドキしてくれんじゃん」

「えっ、違う!これは……春馬が……」

そこまで言った私の言葉を、春馬が遮った。

鏡越しに私達が映っている。

春馬は茶髪の後頭部しか見えなくて、私の唇と、春馬の唇が重なっていることに、少し遅れて感触で気づく。

ゆっくり唇が離されて、私は言葉ごと春馬に持っていかれたかのように、一言も発することができなかった。

私は視線を揺らしながら、ただ春馬を見つめていた。

「俺さ、真理亜が、好きだよ。俺と真理亜って、真理亜の言うドキドキする恋とは違うかもだけど。俺は真理亜といたら、ほっとしてさ居心地いいんだ」

ーーーーとくん、と心臓が跳ねる。

いままで気づいてなかったコトを暴かれたような、奥の見えないカーテンをそっと捲るような、はがゆいドキドキ感だった。

ああ、そっか。話すたび、目が合うたびにドキドキするだけが恋じゃないんだ。私はそんな簡単なことに今更気づいた。

ドキドキする理由なんてなくても、春馬に触れられただけで、嬉しくて、ほっとして、そばにいると安心する。春馬が笑うだけで、楽しくて、いつの間にか私まで笑ってる。

手を繋ぐことも、抱きしめあうことも、小さい頃からの当たり前のように、ずっとそうしていて欲しい。

「……あれ?いつから恋……始まってたの?」

恋愛のススメに書きたさなきゃいけない。

「俺に聞く?」

恋愛の定義付けは人それぞれであって、必ずしもそうであると決めつけるコトは誰にもできないのだ。

春馬が笑って、私もなんだか可笑しくて、二人で声を上げて笑った。

そのあと、私達はこの恋を確かめるようにもう一度キスをした。

初めてなのに初めてじゃないような、でもいつまでもしていたい幸せなキスだった。