「泣くなよ」
春馬は棚から石鹸の匂いのするタオルを取り出すと私の膝にそっと置いた。私は手に取って涙と一緒に鼻水も拭いた。
いつまでも泣いていられそうだったけど、私は泣くのを止めて深呼吸した。今日切らないと、決心が揺らぎそうだった。
「早く切ってよ」
鏡越しに見た春馬は、いつもなら、はいはいとすぐに私の髪に手を掛けるのに、今日は腰に手を当てたまま、黙って私を見ていた。
「それも真理亜の言う、恋愛のススメの定義?」
「え?」
「ドキドキしてた恋愛がうまくいかなかったら、髪切って、吹っ切るってやつ?」
「えと、それは……」
「なぁ、そんなに先生が好きだったのかよ?
真理亜の先生にドキドキする理由って、何だよ?」
「それは、……先生は大人だし……タバコも吸えるし……」
今思い返すと、多分、先生がすっごく好きだった訳じゃないと思う。でも私より随分大人に感じて、タバコを吸う仕草一つでドキンとして、私は恋のススメの定義に先生を自分勝手に当てはめていたことに気づいていなかった。
そしてその恋の定義が、そもそも間違っていることにも。
「なぁ、真理亜、恋するのにドキドキする理由って必要?」
「え?だって、ドキドキするのが恋でしょう?」
呆れたような顔をした春馬が、鏡越しに笑った。
そして、その表情は、すぐに真剣な顔に変わる。
「俺はドキドキしなくても真理亜と真理亜の髪に恋してる。小さい頃からずっと」
ふわりと髪を漉くように撫でる春馬に、何故だか釘付けになる。
「俺じゃダメ?」
思わず身体が氷みたいにカチンと固まった。そんなドラマでしか聞いたことない台詞を、今、春馬が言ったの?
「……だ、めだよ!だって春馬は恋愛のススメの定義に当てはまらないもん」
纏まらない髪の毛と一緒で、ひねくれてる私を春馬は後ろから包むように抱きしめた。
「わっ、春馬」
鏡越しの春馬の顔がいつになく真面目で、私は顔が熱くなる。
「ど、うしたの?……春馬?」
何故だかわからないけど、心臓が飛び跳ねた。
春馬は棚から石鹸の匂いのするタオルを取り出すと私の膝にそっと置いた。私は手に取って涙と一緒に鼻水も拭いた。
いつまでも泣いていられそうだったけど、私は泣くのを止めて深呼吸した。今日切らないと、決心が揺らぎそうだった。
「早く切ってよ」
鏡越しに見た春馬は、いつもなら、はいはいとすぐに私の髪に手を掛けるのに、今日は腰に手を当てたまま、黙って私を見ていた。
「それも真理亜の言う、恋愛のススメの定義?」
「え?」
「ドキドキしてた恋愛がうまくいかなかったら、髪切って、吹っ切るってやつ?」
「えと、それは……」
「なぁ、そんなに先生が好きだったのかよ?
真理亜の先生にドキドキする理由って、何だよ?」
「それは、……先生は大人だし……タバコも吸えるし……」
今思い返すと、多分、先生がすっごく好きだった訳じゃないと思う。でも私より随分大人に感じて、タバコを吸う仕草一つでドキンとして、私は恋のススメの定義に先生を自分勝手に当てはめていたことに気づいていなかった。
そしてその恋の定義が、そもそも間違っていることにも。
「なぁ、真理亜、恋するのにドキドキする理由って必要?」
「え?だって、ドキドキするのが恋でしょう?」
呆れたような顔をした春馬が、鏡越しに笑った。
そして、その表情は、すぐに真剣な顔に変わる。
「俺はドキドキしなくても真理亜と真理亜の髪に恋してる。小さい頃からずっと」
ふわりと髪を漉くように撫でる春馬に、何故だか釘付けになる。
「俺じゃダメ?」
思わず身体が氷みたいにカチンと固まった。そんなドラマでしか聞いたことない台詞を、今、春馬が言ったの?
「……だ、めだよ!だって春馬は恋愛のススメの定義に当てはまらないもん」
纏まらない髪の毛と一緒で、ひねくれてる私を春馬は後ろから包むように抱きしめた。
「わっ、春馬」
鏡越しの春馬の顔がいつになく真面目で、私は顔が熱くなる。
「ど、うしたの?……春馬?」
何故だかわからないけど、心臓が飛び跳ねた。



