「ありがとう」

何だか、春馬がズルくみえて、よくわかない感情が先走って、拗ねたように言った私の頬を春馬が人差し指で突いた。 

「専属美容師のおかげだからな」

幼なじみってよくわからない。

生まれた時からずっと一緒。家は真向かい同士。幼稚園も、小学校も中学校も市内に一つしかない公立高校も、もちろん一緒。

当たり前みたいに春馬が居た。一緒に居すぎて、居心地はいいけど、ドキドキする恋愛関係というものには、私達は当てはまらない。

恋ってドキドキから始まって、目が合うだけで、話すだけでドキドキが止まらないモノだから。

もし、そんなドキドキを春馬に感じて、私がドキドキする理由が春馬だったら、『恋愛のススメ』なんて馬鹿げた指南書なんて必要無いくらい簡単なんだろうけど。


「結局高校も三年連続、俺、花火見るの真理亜と一緒なんだけど、どーしてくれんのっ?」 

「知らないよっ、そんなのっ」

春馬がモテるのは知ってる。でも私はモテるなんて認めたくない。だって私は春馬にドキドキの一つもしたことないから。

「真理亜がひとりぼっちで花火行くの可哀想だから、他の誘い断ってんだけど?」

「可哀想?本当、春馬は、デリカシーないよね」

肘でツンと痛くない程度に突いてやる。

イテテと大袈裟にしながら、春馬がボソリとつぶやいた。

「ま、来年も真理亜に相手居なくて、俺も予定なければ付き合ってやるよ」


ーーーーそっか。高校最後の花火大会だ。

来年から春馬は美容専門学校に通う。私は一緒には行けない。

来年から、春馬は私の隣には居ないんだ。来年から春馬の隣には私の知らない人達が居るんだろう。

毎年見に来た花火も、春馬と見るのは最後かもしれないと思うと、何だろう、何故だか、春馬が遠くなっていくのを感じて、胸が、ちくんとした。

「来年の花火こそ、とびきりカッコいい彼氏と行くんだから」

ちくんとした胸を誤魔化すように、にんまり笑った私に、春馬は愛想なく、はいはい、とだけ答えた。