恋愛のススメ

「早くしろよ、はじまるぞ」

慣れない浴衣に下駄をカロコロ鳴らしながら、春馬に手を引かれて、大きな杉の木の下に今年もちょこんと座る。

去年は、腕二つ分ほど離れて、隣同士に座った距離は、今年はない。

私は春馬に、背中を預けるように、春馬の足の間に座った。長い両手が後ろから私を包み込んで、春馬の吐息が右耳にかかる。

「後ろからみても可愛いじゃん」

春馬が言ってるのは、勿論私じゃない。

「自画自賛じゃない」

「俺が言ってんの両方だけど？」

「え？」

パンッと破裂音を上げながら、花火が上がる。

色とりどりの火花を夜空に散りばめながら、緩やかに弧を描いて、夜空を絵筆でなぞるように花火は、緩やかに儚く落ちていく。

「綺麗だな」　　

「うん……」

花火があがるたびに、花火の光で私の顔が春馬に見られないから心配だった。

だって……。

クククッと春馬が笑う。

「何よ？」

絶対振り返らない。真っ赤な顔を春馬なんかに見せるもんか。

「すっげードキドキしてんじゃん」

しまった……。私に巻きついている春馬の腕を外そうとして、キツく巻かれてることに気づく。

私は思わず文句の一つでも言おうと、振り返ると、こつんと春馬の額が当てられる。

「なぁ、結婚してよ」

「え？」

「夢、思い出してよ、真理亜」

春馬は唇を持ち上げると、そのまま花火の光に溶け込むように優しいキスをした。