「いくら聖女・ドロテアの姪だとしても看過することなどできない。おまえが壊した聖杯は大事な聖物――秘宝だった。教会にとって、ひいてはアスティカル聖国にとって聖物の破壊がどういう意味を持つことなのか……聖女の姪であるおまえなら分かるはずだ」

 アスティカル聖国は大陸の南西部に位置し、妖精界の入り口が唯一ある国だと言われている。その理由は妖精と対話し、彼らから力を借りることができる妖精の愛し子――聖女が存在するからだ。

 妖精の愛し子と言われる聖女は、彼女の語りかけによって妖精たちから莫大な力を借りられる。愛される聖女であればあるほど、その力は強大となる。
 周辺諸国からすれば多大な脅威となるので聖国は一目置かれた存在となっていた。

 聖女は聖国の十代半ばから二十代の乙女に限り、その身に力が宿るとされていて、次の聖女が現れると現聖女の力は自然と衰えていく。
 本来は数年で次の聖女と交代をするがここ十年はずっとリズの叔母であるドロテアが担っていた。


 先程大司教が言っていた教会にある秘宝とは、妖精たちから賜った聖物のことで、リズが壊したとされている聖杯は雨を降らす力を持っていた。

(どうしてこんなことになってしまったのでしょう。私は決して聖杯を壊していませんのに……)


 絶望に染まる青い瞳を閉じ、リズはこれまでのことを振り返った。