「わぁ! 千世、髪色!」

 香乃特有の外見とはギャップのあるハスキーな声で言うと、千世を指差しながら口元を引きつらせた。

 おっとりとしているように見えるけれど、案外厳しいことを言うので少しだけハラハラとしながらふたりの様子をうかがう。

 それに派手な見た目を香乃はあまり好まない。高校に入ってから制服を着崩すようになった千世に、香乃がだらしないと叱ることもある。

「どう? 似合う?」

 上機嫌で千世が聞くと、香乃が頷く。

「似合ってる! 染めたいって言ってたもんね〜」

 褒められることは想定外だったのか、千世は目をまん丸くしたあと嬉しそうに微笑んだ。朝から気まずい空気にならずに済んだので安堵する。

「そうだ! 昨日アップされたトワの実況見た?」

 香乃が声を弾ませながら、私と千世にスマホを見せてきた。
 そこには動画配信者のトワが昨夜アップロードしたホラーゲームの実況のサムネイルが映っている。


「見た見た! あれめっちゃウケた!」

 千世が思い出し笑いをしながら返すと、私も笑いながら頷く。

「トワ、ホラー苦手だからリアクションよすぎだよね!」

 私たちはそれぞれタイプが異なるけれど、中学の頃に同じ配信者が好きという共通の趣味がきっかけで仲良くなった。

 中学の頃の千世は、体育祭で「千世がいればリレーで勝てる」と言われていたほど足が速かった。そして社交的で交友関係も広い。

 香乃は小柄で穏やかな雰囲気だけど、しっかり者で好き嫌いがはっきりとしている性格。

 私は仲良くなるとよく喋るけれど、人見知りをしてしまうので打ち解けるまでに時間がかかる。

 ……本当は他の人たちの前でも積極的に話せるようになりたい。でも打ち解けていない人の前だと緊張するし、失言してしまうのではないかと怖くなって、言葉を選ぶあまりうまく話せないのだ。

 入学したばかりのときの自己紹介タイムのときなんて、カンペまで作ったのに何度も噛んでしまったほどだ。思い出すだけで恥ずかしくてたまらなくなる。


「てか、香乃またアカウント変えた?」

 千世の指摘に、和やかだった空気がピリついたものに切り替わる。香乃の表情が曇り、言いづらそうに視線を落とした。


「あー……フォロワー整理したくて」

 香乃がアカウントを変更した回数は片手では足りない。中学の友達と繋がっているアカウントや趣味で繋がっているアカウントを定期的に新しくしている。
 趣味の方は揉め事が起こったり、投稿内容が合わないという理由が多い。


「誰かと揉めたの?」

 探るような眼差しを千世が香乃に向ける。

「それがさぁ、聞いてよ! トワの配信に女の声が聞こえるとか粘着している子がいるんだけど、あれトワが飼ってる犬の声だし。絶対陥れようとしてんの」

 そういえば、先週トワの件で少し炎上していた。同棲している彼女がいるとか、リスナーと付き合っているとか、そういった内容だった。

「けど、トワ本人が否定してたよね?」

 私の記憶ではすぐに本人が否定をしたため、今は鎮火しているはず。

「そうだよ! 粘着してるのが理有って子なんだけど、わかる?」
「あ、うん。私も相互フォローしてるよ」

 理有ちゃんはトワリスナーの中でも、結構前からいる子だ。
 確かに理有ちゃんがトワの炎上について書いていた。けれど、詳しい内容まで覚えてない。あのときはトワの話題で持ちきりだったので、投稿が流れていきやすかったのだ。

「しかもさ、私が面白いってお勧めした作品を自分が見つけたみたいに周りに話してるんだよね。それ見て、なんかちょっとって思って」

 理有ちゃんのいくつかの言動が香乃の気にさわったらしい。一度無理だと判断すると、香乃はブロックして縁を切る。

 SNSの使い方は自由だと思う気持ちと、やりすぎだと思う気持ちが入り混じって、私は返す言葉に困ってしまう。