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 私と香乃が仲良くなったのは、中学二年生の頃。

 同じクラスなものの特に交流もなく、夏休み前までは話したことすらなかった。

 二年生の一学期が終わりを迎えてから、私の環境が一気に変化した。小学生の頃からずっと仲がよかった子が一学期で転校してしまったのだ。そして夏休みが始まると同時に、三泊四日の林間学校があった。

 レクリエーションの時間も、自然と仲の良いグループでみんなかたまっていて、話す人はいても仲がいいと言える人はいない。孤独感を覚えながら、早く林間学校が終わることばかりを願っていた。

 三日目の夕方、明日になれば帰れると思い気が緩んだのか、私は熱を出してしまった。あと一日だけ耐えればいい。そうやって我慢していると、夜に肝試しをすると先生たちから報せがきて、生徒たちが騒ぎだした。

 誰とペアを組んでもいいらしく、早速組もうと話している子たちや、好きな男子を誘おうとはしゃいでいる子たち。けれど、私は熱で欠席すると伝えに行く気力も湧かず、部屋の隅っこにいた。

 楽しそうな室内で自分だけが取り残されたような感覚になり、遠目から眺めていると、ひとりの子が声をかけてくれた。

『ねえ、具合悪いの?』

 まん丸い目が特徴的で、小柄な女の子。外見は同学年の子よりも幼さを感じるけれど、声は低音でギャップがある。それが熊谷香乃だった。

『さっきから様子変だなって思って。違った?』

 私は首を軽く横に振る。それによって、ずきりとこめかみあたりが痛む。体調が悪化してきたようだった。


『体調悪くて……』
『もしかして熱ある? 先生に言って薬もらってこようか』

 私の前にしゃがみ込んで心配そうに見つめる彼女に、涙腺が緩んでしまう。不調によって精神面が弱くなってしまったのか、耐えていた心細さに限界がきたみたいだ。

 嫌な顔をすることなく私の背中をさすってくれる香乃の優しさに、なかなか涙が止まらなかった。


 結局その後、香乃が先生から薬をもらってきてくれて私は肝試しには不参加になった。そして『欠席したかったしちょうどいいや』と笑って、香乃は私に付き添ってくれていた。

 薬のおかげで少し楽になったため、ふたりきりの部屋の中で私と香乃はいろんな話をした。いい思い出なんて林間学校でひとつもないと思っていたけれど、香乃のおかげでこの夜だけは楽しかった。


 そして夏休みが明けてから、香乃はよく私に声をかけてくれるようになった。お互い同じ配信者が好きだとわかってからは、ますます私たちの仲は深まっていく。


 その後、香乃が一年生のときに同じクラスだったという千世のことを紹介してくれて、私たちは中学二年の秋頃から三人でいるようになったのだ。

 香乃が声をかけてくれてなかったら、きっと千世とも仲良くなれなかった。

 香乃がいてくれたから、私は再び学校が楽しいと思えるようになった。私の中で香乃は大事な友達で、大きな存在だった。



 一緒の高校に合格して、私たちの関係はこれからも続いていく。変わらないはず。
 そう思っていたのに——。