学校へ行くと、先ほどの香乃のように光る人がちらほらといる。色は白が多く、他には赤や、青色が見える。状況についていけず、困惑のあまり声も出ない。

 教室でも周りの人たちを観察してみたけれど、香乃や千世のように他の人たちには見えていないのか、誰も光のことを指摘しない。

「うわ、山野ダウト〜!」
「はあ? 嘘ついてねぇし! じゃあ、今度こいつ撮って!」

 男子たちが教卓の前で盛り上がっている声が聞こえてきて、自然とクラスの人たちの視線が彼らへと集まる。

 どうやらダウトカメラで遊んでいるみたいだ。撮影している人のスマホ画面が一瞬見えて、私は全身が粟立つ感覚を覚えた。

 ——嘘をついている人が白く発光する。

「……っ」

 なにかの間違いだと思いたい。こんなことありえない。
 けれど、私の身に起きている現象は、まるでダウトカメラみたいだ。

 微かに震える手で口元を押さえながら、今朝の出来事を思い返してみる。
 話題に出ていたゆーかちゃんと香乃が親しくしていたことは間違いないはずなのに、名前しか知らないと答えていた。そしてその発言をしたとき香乃の周囲が白く光ったのだ。

 本当に嘘を見抜けるようになったのだとしたらと考えると、困惑よりも恐怖心が勝った。


 私は慌てて教室を出てトイレに駆け込む。
 個室のドアを閉めて、震える手でスマホをブレザーのポケットから取り出した。

【人の嘘が見える】

 どんな言葉で検索をかければいいのかわからず、とにかく文字を打ち込む。
 けれど、ダウトカメラのことばかりが引っかかる。奥深くまで検索していくと、あるページにたどり着いた。


 ——共感覚と光感覚症について。

 共感覚は文字や音などに色を感じたりすると書かれている。中には人の声に色が見えるという人もいるらしい。

 そして、もうひとつの光感覚症は毒性ストレスを溜め込み過ぎた結果、ストレス反応の暴走が起こり発症するらしい。本能的にSOSのサインを出しているのだそう。

 症状は自分や周囲の人が言葉を発すると発光して見えるそうで、感情によってその色が異なるらしい。

 例えば、人の嘘は白く光り、怒っているときは赤く光る。
 十分な療養をとれば治るものなので必ずしも病院に行く必要もないそうだけれど、人によってはメンタルケアが必要みたいだ。

 また、光過敏にもなりやすく頭痛を引き起こす可能性があるため、その場合は光の情報を和らげるために色つきのメガネをかけることが推奨されるらしい。


 私の場合、当てはまるのは後者の症状だ。

「……光感覚症」

 どうして私が発症したんだろう。気づかないうちにストレスを溜めていたということだろうか。

 苦しそうな詩のことを思い出して、スマホをきつく握りしめる。辛いのは、私じゃなくて詩なのに。