それから、午前中の演習が始まった。
症例は高齢男性。
心不全となり、社会との交流が少なくなってから抑うつ症状が出現しているケースだった。
グループで意見を出し合う。
「まず薬剤整理からかな。」
「心不全のコントロールも必要ですね。」
学生たちが話し合う中。
沙奈ちゃんは静かにカルテを読み込んでいた。
そのあまりに綺麗な横顔に、完全に心を奪われていると沙奈ちゃんは小さく口を開いた。
「この患者さん…。1人になるのが怖いんだよ…」
沙奈ちゃんのその一言に、みんなが顔を向ける。
「ここ。奥さんを亡くした時期から食欲も落ちて、かなり体重も減ってる。
社会との交流が少なくなったのも、病気だけじゃなくて奥さんを亡くしたという大きな原因があると思う…」
すごい…
たった短時間でそこまで情報を読み込んで、アセスメントをしている。
沙奈ちゃんはきっと、病気からその状態になっただけではなく。
その人が今まで生きてきた人生の背景を見ている…
「…あ。ごめんなさい…私」
「七瀬さんはすごいね。」
集まった視線に、彼女が戸惑っている姿を見て思わずフォローに回った。
注目を浴びることにきっと慣れていないのだろう。
浴びせられたその注目とともに、彼女の白い頬がピンクに染まっていく。
だけど、本当にそう思った。
本当は『すごい』だけで片付けたくなかった。
今沙奈ちゃんが話した内容は、きっと彼女にしかできないアセスメントだから。
そんな姿を見て思った。
この子はきっと、誰よりもたくさんの苦労をして、たくさんその苦労を乗り越えて来たのだろう。
その影を見せないくらい、その彼女の芯の強さと
真っ直ぐな綺麗な心に、完全に好きになっていた…


