「大翔先生…」
「隣でみてきたから…全部知ってる。
だから…
止めたくなかった。」
その一言に、私はゆっくり顔を上げる。
切ない表情で、優しい瞳でまっすぐ見つめれ胸が締めつけられる。
「本当は、送り出したかった…
『頑張ってこい』って笑って送り出したかった。
でも…」
再び大翔先生に抱き寄せられる。
抱きしめられる腕の力が、少しだけ強くなる。
「沙奈の顔色や呼吸状態を見て。
核心をつかれた検査結果を見て。
医者としてではなく、1人の男として思った…」
大翔先生の話す声が少しずつ苦しくなっていることに気づく。
「このまま実習に行かせたら、沙奈を失うかもしれない。
そんな未来だけは、どうしても受け入れられなかった。」
思わず息を呑む。
初めてだった。
いつも穏やかな大翔先生が、こんなにも弱い表情を見せたのは。
「大翔先生…」
「沙奈…。俺はお前を失いたくない。
沙奈とこの先もずっと一緒に生きていきたい。」
熱を帯びた唇で、優しく私に口付ける。
それからそっと身体を離した。
「沙奈。精神科の実習には逃げない。」
大翔先生は、優しく微笑んだ。
「例え、何年もかかったとしても。元気になったら、また挑戦をすればいい。」
そっと額を寄せる。
「でもな。沙奈は1人しかいないんだ…
俺にとって、沙奈の命の方が何倍も大事なんだ。」
堪えていた涙が、ぽろぽろと溢れ出た。
「…大翔先生。私…」
「ん?」
「本当はずっと先生のそばにいてもいいのか分からなかった…」
大翔先生は何も言わず、静かに聴く。
「だから。最初は信じられなかった。
大翔先生は、どうして私を大切に想ってくれるんだろうって…
病気を持ってて、心配ばかりかけて。
迷惑しかかけてないのにって…」
涙で言葉が途切れる。
「でも…。先生が『失いたくなかった』って言ってくれて。
私、先生のそばにいてもいいって。
先生と生きていいんだって思えた。」
「当たり前だ…」
耳元で優しく囁く。
「生きていてくれるだけでいい。それだけで、俺は幸せなんだ。」
「ありがとう…。先生…」
「うん…」
「ちゃんと、治療して必ず回復します。」
「俺も…。少しでも早く沙奈が元気になれるように治療を頑張るから…沙奈も沙奈のペースでゆっくり回復していこうな。」
決して治ることはないとしても。
回復するために必要な休みだと、今なら心から思えた。


