「ビックリしちゃった? ごめんなさいね~憧れの『お兄様』を奪い取ってしまって……」

 杏奈は凪徒の言葉を無視し、魂を抜かれたような無表情のモモの頬に触れた。

 が、すぐに凪徒はその手を払いのけ、

「モモに触んなっ」

 怒りが込み上げ過ぎているのか、手の動きも出てきた言葉も一切が簡潔だった。

「相変わらずケチねぇ……ね、モモちゃん。貴女、私達の養女にならない? 私もこんな可愛い娘が出来たら嬉しいし。って、ちょっと年齢近過ぎるかしらね。おじ様にでも養女にしてもらう? なら、何の文句もなく貴方の妹になるのよ、ナギ」

 ──娘……? 妹……。

 その言葉と共に、杏奈は今までで一番意地悪そうな(わら)いを見せた。

 残酷な景色を(たの)しむように。モモは何とか動かせていた心臓と肺が止まった気がした。

 そして目の前で一度払われた杏奈の右手首がモモの後ろから(つか)まれたのが見えた。

「お前……いい加減にしろ!」

 周りで花火観賞をしていた人々の眼が一気に集中する。

 杏奈はそれでも微笑みを保ち続けた。