「ぷはっ」

「……プハって何だ? お前、もしかして息止めてたのか?」

「止めてたんじゃなくて、止められてました……」

 もう一つおまけに鼻の頭も相当押し付けられていたらしく、(ほの)かに赤らんでいた。

「え? あ、わりい」

 微かに苦笑いを洩らしながら凪徒は再び謝ったが、その表情はいつもの様子に戻ろうとしつつも、腰を(かが)めながら真顔になった。

 視界が切ない(おもて)に占領されて、モモはまた呼吸出来なくなりそうになる。

「傷……見せてみろ」

「え? いえ、大丈夫です。みんな大袈裟なんですよ、こんな眼帯なんてしなくてもいいのに……」

「いいから」

 真剣な雰囲気に圧倒されて、モモは仕方なく眼帯とその下のガーゼを外した。

 瞼の左隅に一センチほどの赤い筋があり、その周辺は確かに腫れて盛り上がっている。

「悪かったな……痛かったか? ……だよな」

 ──あんな風に抱き締められて、こんな心配な顔を向けられて……先輩のこと、また諦められなくなっちゃうよ……。

「だ、大丈夫ですから。これから良く冷やして休みます。あ、あの……おやすみなさいっ」

 モモは何とか笑顔を見せ、一つお辞儀をし、急いで背中を向けて駆け出した。

 そうでもしないと自分の心の奥底が、あの憂いを湛えた綺麗な瞳に見透かされてしまいそうだった──。