それから凪徒は公演前のリハーサル兼練習の最中も、午前の公演も、短い昼食の時間も、午後の前半公演も、モモと暮とは全く会話を交わさなかった。

 普段通り演目をこなす──それだけに身を捧げる。

 それが唯一自己を冷静に保つ手段と思われたからだ。

 そしてモモも暮もそれを悟ったように、余計な声かけはしなかった。

 特にモモは──いや、モモもまた同じ想いなのかもしれない──凪徒はそう思うことにして、本日最後、午後後半のショーに臨もうとしていた。

 いつものように暗転したステージの支柱に降り立ち、ポーズを取って照明が点けられるのを待った。

 やがてスポットライトが舞台真ん中のみを輝かせて、宙返りしながら走り寄ったモモを迎え入れる。

 大勢の歓声に応えながら反対の支柱に歩み寄り、モモはリズム良く昇り始めた。

 足場まで辿(たど)り着いて、再びポーズを決めると同時に凪徒とモモ、更に各々のサポーター二人にスポットライトが当てられ、四人は遠目でも分かるほどのにこやかな笑顔を見せて手を振った。