「あたしは杏奈さんには会っていません。本当に買い物に行っていたんです」

「その店……東京にしかない上に、お前の給料で買えるレベルじゃないのにか?」

「えっ!? このお店そんなに……? あ、いえっ、この袋は前にリンちゃんからもらっただけで……そ、それじゃ」

 プイッと顔を横に向け、そのまま身体も背を向けようとしたその時──

「きゃっ」

 首根っこを引っ張られ、背中を覗き込まれた。──って?

「やっぱり……このショップの服じゃねぇかよ。まったく、杏奈とどこに行ってたんだ」

 首の後ろのタグに目をやった凪徒は、ついに確信を(つか)んだと、口元をヘの字に曲げて体勢を戻した。

「な、何で先輩がそんなに女性のお店に詳しいんです~!」

 ──うちの傘下(さんか)の店だから、なんて言えないよな……。

 凪徒は更に不機嫌な(おもむき)を露わにして、困ったように後頭部を掻き回した──。