「貴女の髪って結構茶色いけど……染めているの?」

「え?」

 運転を始めてからずっと口を開かなかった杏奈が横顔のまま尋ねた。

「あ、いえ……これ、地色なんです。良く間違えられるんですけど……」

「肌も白いし、元々の色素が薄いのね。遺伝なんでしょうけど……あ、ごめん。貴女、ご両親を知らないのよね」

 ──え?

 言葉すら出てこないほど驚いてしまった。何故自分が孤児(みなしご)だったことを知っているのだろう?

「あの……っ」

「やっと渋滞抜けたから、ちょっと飛ばすわよ」

 ──ひい!?

 突然アクセルを踏まれ、シートに押し付けられたモモは続きを話せなかった。

 そして杏奈の表情もそれから一切尋ねる隙を見せず、やがてスピードが緩やかになった頃には、モモは昨夜の不眠と今日一日の緊張のせいで、いつの間にか眠りに落ちていた。

 ──公演の時にはお化粧もするのだろうけど……やっぱり十代の肌ってキメもハリもあっていいわね~髪も(つや)やかだし。

 そうして信号待ちの停車時に、杏奈はモモの首筋の一束を手に取り、そっと撫でた──。