「彼女がそうなんでしょ? ──モモちゃん」

「え?」

 思いがけず自分の名が飛び出し、金縛りのようなしびれから解き放たれる。

 モモはつい驚きの声を上げた。

 が、刹那──

「こいつは関係ない! モモに近付くな!!」

 凪徒の長い腕が杏奈から(かば)うように伸ばされ、モモの身体の前に現れた。

「貴方が戻れば無関係とは言えなくなるかもしれないわね。まったく……そろそろ『結論』を出したら? ちょっと借りるわよ──大丈夫。今夜中に返すわ」

「よせ……モモ、行くな。行ったら、お前、分かってるな?」

 ──そ、それって……あの超高速デコピンってことですか!?

 この深い因縁あり気な二人の攻防に、何故自分が巻き込まれているのか?

 理由は全く分からないが、とにかくあのお仕置きだけは受けたくない!

 モモは同意を表わす(うなず)きを、必死な眼を向ける凪徒に繰り返した──。



※凪徒は春の誘拐事件以来、モモにデコピンをしておりません。意外に真面目です。