「おやじ……杏奈に桜を乗っ取られるなよ?」

 凪徒はいささか自分を(わら)い、やっと父親に息子らしい言葉を掛けた。

「まぁ、それもアリかなと、思うがね」

 ──!!

 吹き出しながら口に拳を当て、杏奈に皮肉な笑顔を寄せる隼人。

 ──仕事だけしかなかったおやじを、杏奈が変えた……?

「お~おっ、ごちそうさん」

 凪徒はいつもの食後のように、満腹そうに目を伏せ立ち上がった。

 が、高い位置から二人を見下ろした時には、スッキリした淡い笑みを浮かべていた。

「凪徒……もうお前に帰ってこいとは言わないから心配するな。空中ブランコで舞うお前の姿を見て、残念ながら思い知らされた。お前の居場所はサーカスなんだと……お前も、桃瀬君も輝いていたからな」

「おやじ……」

 隼人の見上げる温かな眼差しは、そう言いながら凪徒の下のモモに流れる。

「半分血の繋がったお姉さん達に会いたくなったら協力しよう。それと……椿さんも必ずどこかで君のことを見守っている。一日も早く会える時が来ることを祈っているよ」

「ありがとうございます!」

 モモも颯爽と立ち上がり、元気にお礼を言って深々と頭を下げた──。