「桃瀬君、残念ながら私の知る椿さんはここまでだ。それと……お父上との血縁は、彼の三人の娘達から了承を得られれば、遺伝子検査で明らかになるだろう。接触を試みるかね?」

「あ……い、いえ」

 いきなりの現実的な質問をモモは咄嗟(とっさ)(こば)んでいた。

 母親が義理の娘となる筈だった彼女達を想い、身を引いた辛い決意を踏みにじりたくないと思っていた。

「あたしの居場所はサーカスですから。これ以上はもう……」

「モモちゃん……」

 テーブルを挟んで真向かいに腰かけた杏奈が、切なく言葉を掛ける。

「まぁ……何はともあれ、これで一見落着ってことだな? なぁ、凪徒!」

 しんみりとした室内を一掃するように、明るい声を出した暮が凪徒の名を呼んだが、

「いや……まだ終わっちゃいねぇ! おやじ、杏奈、訳を聞かせろ!!」

 漂っていた温かな空気が一瞬にして()てついた──。