「やぁ、遅れてすまなかったね。途中出席となるが、社長室に通してくれるかい?」

 ──え?

 突如モモの右隣から聞こえた懐かしい温かな声。

 モモは急いで首を二百七十度回転し、そのがたいの良い長身のスーツ姿を見上げた。

「お、お父様!?」

「久し振りだね、明日葉。……ああ、ここでは桃瀬くんの方がいいかな」

 この春にモモを誘拐し父娘(おやこ)ごっこの数日を過ごした高岡紳士が、優しそうな眼差しでモモを見下ろしていたのだ。

「い、いらっしゃいませ、高岡様! ですが高岡様のご出席はお聞きしておりませんが……」

 目の前で繰り広げられた驚きのやり取りで、目を丸くした受付嬢が慌てて来客リストをめくる。

「え? それは困ったな……隼人社長直々(じきじき)の依頼であったから、久し振りに出向いたのだが」

 紳士は受付嬢に見えないようモモに軽く目配せをして、いつもの温和な表情で言葉を返した。

「そう(おっしゃ)いましても……」

「会議開始の時刻と出席メンバーの顔ぶれでも説明出来れば通してもらえるかな?」

 と、困り顔の受付嬢にやや顔を寄せ、周囲に配慮して耳打ちした。

 女性も聞かされた内容に「確かに」と相槌を打つ。