「え、煙幕……発生装置?」

 掌に乗るほどの白い球体に、すっとんきょうな声を出して目を丸くするモモ。

「そう! 名前は白珠(しらたま)三号君。サーカスの演出でもたまに使ってるよ。こんなこともあろうかと改良を試みたんだ。このボタンを押して十秒後に、白い煙と紙の燃えた匂いが発生する。でも火器は一切使ってないから安心して。ボヤ騒ぎでも起きれば、受付のお姉さん達の目も攪乱(かくらん)出来るだろ? その間に……」

 ──それって後でバレたらヤバくない?

 モモは心の中ではそう思いながらも、俄然やる気を出して奮起する秀成に制止の言葉は掛けられなかった。

 ──まぁ……とにかく使わずに突破出来ることを祈りましょう……。

「しっかし、モモは色んな(やから)に気に入られるもんだな。春にはあの高岡氏にメイドの双子、今回は旧財閥の一人娘。あの姉ちゃんも何を考えてるんだか」

 暮は真っ直ぐ前方を凝視し、順調に高速を進みながら自分の(つぶや)きに自身で笑ってしまった。

「あ、あの……暮さんはどう思いますか? その……杏奈さんが、どうしてあたしを気に入ったのか……原因とか、理由とか……?」